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核廃絶と対話と祈り(平岡元広島市長とお会いして) 〜179回〜

昨日、広島原爆資料館の地下ホールで行われた「人間の安全保障フォーラム」に参加してきました。これは旧ソ連のゴルバチョフ元大統領の遺志を継ぎ、核戦争の愚かさを確かめ合う主旨で初回の沖縄に次ぐ2回目の開催となるものです。

 

元外務省主任分析官の作家、佐藤優さんの記念講演と、佐藤さんと元広島市長の平岡敬さんの対談がありました。対談のモデレーターは、長年広島で平和活動を続けているNGO「ANT-Hiroshima」理事長の渡部朋子さんです。

 

登壇する時、平岡さんは車椅子で現れたので驚きましたが、対談後にお会いした時、8日前に転倒して右足の膝にヒビが入ったとのことで、96歳になっても怪我を押して平和を伝えようとする姿勢に頭が下がります。8日前と細かくおっしゃるのも元新聞記者らしいw

 

平岡さんの主張はここ数年、米国が原爆投下を過ちと認め、広島に「謝罪」しないと、核廃絶は進まないというところからブレてはいません。対談の場で佐藤さんもこの意見に賛同されたことに正直驚きました。

 

佐藤さんの講演は「米大統領選と世界の動向」がテーマでしたが、40分のうち30分をイスラエル問題に割かれました。対談でイスラエルによる核戦争が勃発する危機の中で、国際的に弱体化している米国と今、誠意を持って対話することで「謝罪」は可能だと。

 

物事にはタイミングがあると語った佐藤さんがカルヴァン派のプロテスタントだとは初耳で、さらに石破新総理も宗教的には同じ立場らしい。いわゆる「予定説」に立つ宗派ですよね。神の救済にあずかる者は予め決められているとする説です。

 

――救済されるべき選ばれた人間であるという証しを得るために、禁欲的に精一杯仕事に励む――それが資本主義の発展を促したというのがマックス・ウェーバーの理論です。蓄財を認めた初めてのキリスト教宗派といえます。

 

話が逸れてきたので、元に戻しますね。佐藤さんは人を殺してはいけないのと同様に、核兵器を持ってはいけないのは、数学で言う「公理」だと言う。公理とは、論証ぬきで真だとする根本命題のことですよね。自明の真理のこと。

 

とんがった理論家の佐藤さんが、誠意を持った対話(ダイアローグ)や、あるいは祈り、想いみたいなものの力を信じるのは、まさにプロテスタントだからだと感じました。そしてそれは米国の主流派の考えでもあるわけです。

 

米国人なら、あるいはプロテスタントなら、広島市民や沖縄県民がその体験を祈りと想いを持って真摯に伝えることができれば米国の「謝罪」はありうるとする考えは、ある意味同じ信条に立つ佐藤さんの言葉として信じられると感じました。

 

3時間半を超えるイベントの終わりに、渡部朋子さんの優しい声で、参加者全員の緊急アピールが発表されました。「戦争とテロを含むすべての暴力に反対する 核兵器は絶対に使ってはならない」

 

なんて簡単で素直な言葉なんでしょう。幼稚でさえある。これは「公理」と言えるでしょう。こんな安易で単純なことさえ人類は守れないのです。ホモサピエンスが誕生して約40万年。そろそろ人間は進化しないと本当に滅びてしまう。