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「雨ニモマケズ」と憧れのサミー 〜199回〜

『雨ニモマケズ』宮沢賢治/柚木沙弥郎 出版:ミキハウス
『雨ニモマケズ』宮沢賢治/柚木沙弥郎 出版:ミキハウス

4月2日で62歳になりました。幼い頃、自分がおじいちゃんになるとは思ってなかった。まぁ、自分では全然おじいちゃんとは思ってませんけどね笑。僕が小学生の頃の60代のイメージと、最近の60代の方々の印象は違うような気がします。

 

自分で言うのもおこがましいが、あの頃の60代より若い気がするのです。いまだにコム・デ・ギャルソンやヨージ・ヤマモトの服を好んで着たりするし、20代の頃からファッション感覚は変わってないなぁ。体型はひどく変わってしまったが笑笑。

 

先日たまたま見たNHKの「日曜美術館」で、柚木沙弥郎(以下サミー)が取り上げられていました。染色家という枠組みに収まらない総合芸術家。昨年、101歳で亡くなるまで、おもちゃだらけのアトリエで創作を続けたスーパーおじいちゃんです。

 

東京の家を空襲で失い、1946年、24歳の時に倉敷に移り住んだサミーは、大原美術館で型染めに魅せられ工芸の道に進んだという。それから75年間、版画、切り絵、絵本、人形、おもちゃと工芸の枠を超えて新たな世界を次々と切り開いていきます。

 

『雨ニモマケズ』宮沢賢治/柚木沙弥郎 出版:ミキハウス
『雨ニモマケズ』宮沢賢治/柚木沙弥郎 出版:ミキハウス

「ワクワクした気持ちが原動力」だと語っていたサミー。もし101歳まで生きたとして、僕にそんなことが言えるかな? 以前このブログでも95歳で平和活動を続けられている平岡元広島市長のことを取り上げたが、先輩方は本当にスゴイ。尊敬しかありません。

 

サミーの作品で僕が特に好きなのは、2016年94歳で上梓した絵本『雨ニモマケズ』です。別冊太陽で、編集者の松田素子さんが、この素晴らしい絵本ができるまでの逸話を記しています。宮沢賢治の遺作とも言える『雨ニモマケズ』がどのように絵本となったのか?

 

通常の編集と違って、松田さんは意見交換等することなく、サミーに作画を任せ切りにしたという。ある日、サミーから電話が掛かってきて「僕ね、この詩を、明るく描こうと思うんだ。だって、これは賢治の〈祈り〉なんでしょう?」と言われた。

 

皆さんは、宮沢賢治の『雨ニモマケズ』が書かれた黒い手帳をご存知ですか? 結核で亡くなる前、雨ニモマケズ…と手帳に他のメモと並んで、走り書きのように鉛筆で書かれているのです。誰もが苦痛の中で生まれた重い作品だと思うじゃないですか。

 

『雨ニモマケズ』宮沢賢治/柚木沙弥郎 出版:ミキハウス
『雨ニモマケズ』宮沢賢治/柚木沙弥郎 出版:ミキハウス

僕自身、岩波文庫の『雨ニモマケズ』を読むと、背筋を正されるような気持ちになります。この絵本を買って広げたときに、本当の賢治の心に触れたような気がしました。病苦の中できっと賢治はこんな明るい景色を見ていたんじゃないか。

僕も久しぶりに絵を描いてみようかなぁ…(大学の時、半年くらい美術部に所属w)。最後に、この絵本ができて展覧会を開催した時の出来事を紹介しておきますね。展覧会を見た中年の男性が帰りがけに、次のようにサミーに語りかけたとのこと。

「僕はこれまで、この詩を読むたびに、叱られているような気がしていたんです。でも、今日、柚木さんの絵と一緒にこの言葉を読んでやっとわかりました。僕は励まされていたんですね……」――『別冊太陽「柚木沙弥郎」つくること、生きること』より――