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銭湯としゃぼん玉

松山市に居たことがあります。2008年の春から2010年の秋まで、わずか2年半でした。温泉で有名な道後に住んでいました。振り返れば、路面電車で毎日通勤する、とても風情のある生活でした。

 

縁があって、仕事をしながら愛媛大学の非常勤講師をしたことがあります。内容は「コミュニケーション論」です。スケジュールの都合、受講者は教養課程の理系学生たち。広告関連の講義ですから、文系に合わせて欲しいところですけど…。

 

いろいろ内容を工夫したつもりでも、多くの学生が寝ていたり、こそこそ喋ったりしている。ま、私の講義がへたくそなので仕方ないんですが、毎回はなかなかつらい。

 

ほとんどが工学部と医学部の学生たち。将来、医者になる優秀な学生達もいるんですが、興味がない話は耳に入りませんよね、普通。

 

そんな講義が終わった夜は、湯籠(分かりますか?)にタオルと着替えを入れて、道後温泉に行くのです。大衆浴場の「椿の湯」まで自宅から歩いて5分。道後公園の前を通って、ぶらぶらと通いました。

 

湯舟の周りにだいたい23人のお爺さんたちが横たわっている。初めて浴場に入った時は、老人の死体が並んでいるのかと本当にびっくりしました。寝てるんですよ、気持ち良すぎて。

 

銭湯では、ボディソープより、やっぱり石鹸ですよね。タオルに思いっきり石鹸を擦り付けて泡立てる。ブクブクと泡が膨らんで、しゃぼん玉が出来たりする。本当にくつろげます。

 

最後の講義で、『しゃぼん玉』の話をしました。野口雨情作詞のとても有名な童謡です。

 

♪しゃぼん玉飛んだ 屋根まで飛んだ 屋根まで飛んで こわれて消えた

 しゃぼん玉消えた 飛ばずに消えた 産まれてすぐに こわれて消えた

  風、風、吹くな しゃぼん玉飛ばそ

 

野口雨情は、初めての娘「みどり」の誕生をたいそう喜んでいたが、産まれて7日目に死んでしまったという逸話があります。作品のできた背景を知るのと、知らないのでは、この歌の印象が違いますよね。

 

物事に隠れた背景を知ることの重要性を、『しゃぼん玉』の歌詞を使って伝えようとしたのですが、相変わらず、学生たちはよく寝てたなぁ。みんな気持ちよさそうに。笑