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エールと言霊

先週からNHK連続テレビ小説『エール』が再開されました。このコロナ渦で2ヶ月半もの間、撮影が中止され、616日から再び収録が始まったと聞きます。本当に異例のことですよね。

 

昭和の大作曲家「古関裕而」こと、古山裕一を演じる窪田正孝さんのダメな奴っぷりが、まるで私自身を反映しているようで、なぜか毎回見てしまう。

 

再開されたドラマの背景は、日本が戦争へと突入していく時代です。古山裕一も、時代に翻弄されながら次々と軍歌を作曲する。代表曲『露営の歌』に続き、昨日は『暁に祈る』が完成する回でした。

 

広島市は、国際平和都市として、良くも悪くも政治団体が集う街です。『エール』の影響か、軍歌を大音量で鳴らして街中を走る街宣車が増えています。先日、会社の席に座っていると、古関裕而作曲の『若鷲の歌』が流れてきました。

 

♪若い血潮の 予科練の 七つボタンは 桜に錨

   今日も飛ぶ飛ぶ 霞ヶ浦にゃ でっかい希望の 雲が湧く 

燃える元気な 予科練の 腕はくろがね 心は火玉

   さっと巣立てば 荒海越えて 行くぞ敵陣 なぐり込み

 

私の幼い頃、まだ小学校にも上がっていない頃でしょうか、父の故郷の鹿児島から叔父が訪ねてきたことがあります。7人の兄弟がいる父は、すぐ下のこの叔父を特に可愛がっていて、晩酌の時に、いきなり『若鷲の歌』を歌いだしたのです。

 

普段は無口で、のほほんとしている姿しか見たことのなかった父が、立ち上がり、腕を大きく振って軍歌を歌う姿に、何かしら恐ろしいものを感じた私は、柱の陰に隠れて震えていました。何かが父に乗り移っている。幼い私にはそう見えました。

 

父の生まれた鹿児島県鹿屋市に、あの有名な「鹿屋海軍航空隊」があるのを知ったのは、私が大きくなってからです。鹿屋航空基地は、「神風特攻隊」の出撃基地でもありました。

 

言霊とは恐ろしいものです。ドラマ『エール』で、流れる『露営の歌』『暁に祈る』を聞くと、その詩に込められた戦意のような、あるいは愛国心のようなものが生まれてきます。

 

言葉は大切に使わなければいけません。言霊が乗り移り、あの穏やかで物静かな父を、一瞬にして軍人に変えてしまう。私は、今でもあの夜、亡くなった特攻隊員が父に乗り移ったのだと感じるのです。