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鯛めしと子規

宇和島の鯛めし
宇和島の鯛めし

先週末、久々に愛媛県松山市を訪れた。広島宇品港から高速船スーパージェットに乗ると、1時間強で松山観光港に着く。

 

港からリムジンバスに乗り、松山城の南をぐるりと回って道後温泉が終点である。JR松山駅、伊予鉄松山市駅、大街道と市内の主要ターミナルを通って走る。街中に温泉がある県都はここだけだろう。

 

松山を離れて、もう10年が経つ。早いものだ。あちこち変わった所だけが目に飛び込んでくる。鯛めし屋がやたらと増えた。かなりブームのようだ。

 

松山に転勤した当初、たくさんの歓迎を受けたが、宴会に、やたらと鯛が出てきた。刺身も新鮮で歯ごたえのある誠に立派な鯛だ。かなりのぜいたく品である。

 

ぜいたく品ではあるが、毎日のように鯛が出てくると、いささか飽きてくるものだ。——昨夜の刺身も鯛だったなぁ、明日の会食もまた鯛かなぁ——罰当たりである。

 

鯛めしにも2種類ある。松山の鯛めしは、炊き込みごはん、武士の料理。宇和島の鯛めしは、漁師料理で生の鯛を使う。「海賊めし」とも言われ、水軍衆が食したとされる。

 

松山の鯛めしは、焼いた鯛を昆布だしで炊く。宇和島の鯛めしは生の刺身をご飯に乗っけて、生卵の入ったタレをかけて食べる。まったく調理法が異なる。とはいえ、鯛は鯛である。

 

愛媛県は、真鯛の生産量が日本一という。鯛ばかり出てくるのも仕方がないのだ。松山を代表する俳人「正岡子規」も瀬戸内の魚の中でも特に鯛を好み、多くの句を詠んでいるので、最後に紹介しておく。さすがの「写生」力である。

 

朝市や 鯛にかぶさる 笹の露

はね鯛を 取りて押さえて 沖膾

俎板に 鱗ちりしく 桜鯛

酒は桃 鯛は桜を 草の庵

初会かな 台に小さき 春の鯛

訴へや 廣島の鱸 伊豫の鯛

病人に 鯛の見舞や 五月雨