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新井満さんのこと

「千の風モニュメント」北海道七飯町HPより
「千の風モニュメント」北海道七飯町HPより

『千の風になって』の翻訳と作曲で知られる新井満さんが一昨日12月3日、誤嚥性肺炎のため北海道函館市内の病院で死去されたとのこと。まだ75歳でした。ご冥福をお祈りいたします。

 

新井さんとは会社のつながりもあり、妙な出会いがありました。10年以上も前のこと、私が松山に居る頃、夏休みに富良野に行った帰りの飛行機での出来事です。

 

休暇中の私は家内と一緒だったのですが、仕事のため同じ便に乗っていた新井さんと松山在住のデザイナーを介して、会話したのが最初です。

 

新井さんは家内に向かって――ほうほう、お父さんがD社ご出身で、旦那さんもD社勤め、何で貴女は自ら進んでそんな不幸な道を選ぶんですか?――家内も私も苦笑するしかありません。

 

――まるで、ヘレンケラーのような人だ――私は返しました「新井さん、妻はまだ2重苦にすぎんでしょう?」――いえいえ、これからも苦しみはずっと続くんですからね。ははは――

 

確かに家内の苦しみは3重苦どころか今も続いていることと思います。汗 当時は新井さんのブラックユーモアに当惑したのですが、それを切っ掛けに彼の芥川賞受賞作『尋ね人の時間』を読んでみたのです。

 

再会は、その後まもなくのことです。広島に異動で戻ってきた私は、たまたま仕事で新井さんに、作家『新井満』として講演会の依頼をすることになりました。

 

講演会の前日に、新井さんと広島市内で夕食を共にする機会を作ります。会話の内容は新井さんが開会式映像をプロデュースした長野五輪のこと等、仕事の話がほとんどでした。

 

実は私もこんなつまらぬブログなど書いていますが、仕事ではイベント業務管理士1級資格を持つ業界の専門家だったりします。笑

 

本当は新井さんに『尋ね人の時間』を創作した経緯など聞きたかったのですが、女性の部下が同席していた都合もあり、その話には触れられませんでした。

 

作品を読んでる方は分かると思いますが、主人公である神島は中年のカメラマンで、女子大生の圭子に好意を持たれ、ホテルに誘われたりする。最終的には「とうとう一度も抱いてくれませんでしたね」と言わせてしまう。

 

あの精緻な心理描写は体験者でないと書けないような気がして、新井さん自身の経験がどこまで作品に反映されているのか、本当は確認をしたかったのです。

 

大先輩であり大作家の新井さんに、そんな無礼な質問ができる訳もなく、仕方なく他愛のない仕事の話を延々と続け、モヤモヤしたまま悪酔いして別れたのが最後になってしまいました。

 

新井満さんは、まさに「千の風になって」北海道七飯町から旅立たれたのだと思います。広島の上空でも今、新井さんのあの繊細で飄々とされたままの風が吹いているかもしれませんね。合掌