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ポジティブとネガティブ 〜132回〜

「ポジティブ」と「ネガティブ」どちらが優れているでしょうか? ほとんどの方が「そりゃ、ポジティブだろう」と言われるでしょう。「積極的」と「消極的」と訳される言葉からも予想できますよね。

 

最近「ネガティブ・ケイパビリティ」という言葉を知りました。「消極的受容力」という訳語がピッタリかと思います。どうにも答えの出ない、どうしようもない状態に耐え抜く能力とでも言いましょうか。

 

今は、様々に現れる多くの課題に対して、いかに早く積極的に解決できるかが問われている時代とも言えます。消極的に耐えて考え込んでいてはダメな奴とのレッテルを貼られるかもしれない。

 

しかしそれが、今は必要だという考え方です。答えを早く出すことだけが能力ではない。持ち堪えていく力、消極的に見えてもこの態度こそが、解決できないことだらけの人生では大きなパワーを秘めている。

 

『老子』に――大巧は拙なるが如し、大弁は訥なるが如し――とあります。本当に知恵のあるひとは一見愚か者のようであると空海が言ったのも「ネガティブ・ケイパビリティ」の考え方に近いように思うのです。

 

見た目も切れもので弁舌爽やかな人間の方が実は案外浅はかで、いざという時役に立たぬという訳です。「大愚」の称号があった良寛和尚のことを思い出しますね。愚かに見えても、愚かさを超えたところに大きな悟りがある。

 

頭の良さげなコンサルタントや経済評論家がメディアでペラペラと持論を語っていますが、自分で考え出した説なのか怪しいと感じることがあります。ネットかどこかで出てきた言葉を繋ぎ合わせて語っているような浅薄さが漂う。

 

いつも黙っている人にこそ注目したいものです。言葉足らずな人にも。今はあらゆるスピードが早すぎるのです。2倍速でYouTubeを見て理解したつもりになっている人に、落語の「間」は理解できません。

 

全ての事にじっくりと向き合うことを忘れがちだった私(社内研修ビデオを2倍速で見ていました笑)も最近、定年を迎え、マネジメント業務に追いかけられなくなってから多くの大切なことに気付かされました。

 

――どうにもならないように見える問題も、持ちこたえていくうちに、落ち着くところに落ち着き、解決していく。人間には底知れぬ「知恵」が備わっていますから、持ちこたえていれば、いつか、そんな日が来ます――

(『ネガティブ・ケイパビリティ 答えのない事態に耐える力』帚木蓬生 朝日選書より)