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自分は正しいと思っている人たちへ 〜142回〜

「実るほど頭を垂れる稲穂かな」という諺は真実です。スポーツジムでよくお会いする広島県立叡啓大学の保井先生はスゴイ学者さんですが、いつも謙虚で腰が低く、私の憧れの方です。自分のことを「としちゃん」と呼んでくれと言われます。笑

 

「ダニングクルーガー効果」をご存知でしょうか? 自分を過大評価してしまう認知バイアスのことです。自分を分かっていない人間は自分を過大評価し、よく分かっている人間ほど過小評価する。まさに後者が「としちゃん」です。

 

私なんぞ、前者の典型例です。分かってないだけに、他人に指摘されない限り、自分で気づくことはない。幼稚園の頃から先生に「人の話を聞きなさい」と注意され続け、最近やっと人の話に耳を傾けるようになれました。汗

 

パスカルの『パンセ(白水社)』断章100に、次のように書かれています。私のように欠陥があるのは悪であるとしつつ――「欠陥に満ちていながら、それらを認めようとしないのは、さらに大きな悪である」と。冷汗

 

欠陥があるとしても、ダニングクルーガー効果理論に従うと、ダメな人間ほどそれに気づかないので、誰かが指摘しないといけない。指摘されない限り、ダメな人間が自ら改心するなんてありえない訳で、さらに大きな悪となっていく。

 

パスカルは続けます。「真実を言うことは、それを言われる相手には有益であるが、それを言う人には不利である。その人はきらわれるからだ。」――だからこそ、地位が上がるにつれ真実から遠ざけられると。

 

先日、定年を迎え再雇用契約された元店長さんがおっしゃいました。①自分が接客していると割って入る店員が増えた。②メーカーの女性派遣社員と仲良くなった(どういう意味なのか?笑)。そして③会議で自分の意見が否定されるようになった。

 

これらの原因もパンセ断章100に書いてある通りです。――「もし人がわれわれの気に入りたいという下心があれば、われわれに不快だと思われるような役目をはたしたがらないということが生じる。

 

管理職が「評価」という権力を持てば、誰しも「裸の王様」になってしまう可能性がある。なぜなら、部下たちは不快と思われないよう本当のことを言わず、マネージャー(店長)の意見は否定されることはないので、まさに真実から遠ざけられる訳です。

 

元店長曰く、「自分の意見は組織の中で割と正論だと思ってきたけど、実はそうでもなかったんだねー。」現在マネージャーの立場にある皆さん(特に上位の方)、自分は会社ではいつも正しいと思っていませんか? それってほとんどが部下の忖度かもしれませんよ。

 

――ひとりの王侯が全ヨーロッパの笑いぐさになっていて、しかもそれを知らないのは当人だけだということもあろう。(中略)王侯の側近にいる人々は、かれらのつかえている王侯の利益よりも、かれら自身の利益をいっそう愛している。そこで、かれらは自分自身を傷つけてまで、王侯に利益をえさせようとは思わないのである。――『パンセ』断章100より